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4.3 海洋環境汚染の現状および環境保全・回復のためのアプローチ

ノルウェー沿岸海域の汚染レベルは、オスロなど大都市付近や工場の周辺など局所的なものを除けばそれほど深刻なものではないが、North Sea Conference、OSPAR、あるいは極域ではAMAPなどの国際的なモニタリングプログラムなどを通じて近隣の諸国と連携を強めながら、たえず現状の診断と環境回復のための目標設定を行い環境改善の努力が続けられている。現状診断をできるだけ客観的に行うため、水質・底質、さらには生物体内の含有量について明確な判定基準(環境階級区分、付録2参照)が示されている点は大変印象深かった。また、環境モニタリングのための体制の整備も進んでおり、個々の問題別にガイドラインが作成されている。ノルウェー南西部のスカゲラク海峡周辺を中心として1990年に開始された生物調査を含む沿岸モニタリングは少なくとも10年間は継続される予定である。前半の5年間の中間報告を見ると幾つか興味深い時空間変化が検出されているが、それが最近の栄養塩濃度の上昇と連動するものかどうか現時点で判断することは難しい。今後さらにモニタリングを続けることにより人為的な影響を自然の変化と識別できるようになるであろう。わが国でも生物を含めた恒常的・継続的なモニタリングの体制の整備やデータベースづくりを早急に進めていく必要があることを痛感した。
油の流出事故などに伴う短期的なインパクトに加えて、最近は石油や天然ガス採掘のためのプラットホームから排出される産出水(produced water)の長期的な生物影響について恒常的なモニタリングが行われ、排出水の量や化学組成などについて正確な情報の収集と整理が進められている。また、流れの数値モデルを利用して、そうした汚染物質の年々の挙動や長年の平均的な分布状況を診断・予測するところまで技術開発が進んでいる。近い将来、それをさらに生態系モデルと結びつけて、生物濃縮や生態系での影響の増幅過程を予測することができるようになるものと期待される。
フィヨルドの出口には浅いシルが存在していることが多く、フィヨルド内部とくに深い海盆域の海水交換は必ずしも大きくない。そのためサケ等の養殖場としてフィヨルドを利用する場合の規制や環境管理はかなり厳しい。すなわちフィヨルドの海水交換特性に着目した酸素収支の解析モデルにより、その形状や養殖負荷の状況から適正な収容力を算出する方式を確立するとともに、モニタリングとそれにもとづくより簡便な環境診断モデルを用いて、養殖業者自らが環境を管理していくためのガイドラインの整備も進んでいる。わが国の沿岸の状況はかなり複雑で養殖負荷以外の有機物の負荷も多くまた環境悪化の程度にも大きな開きはあるが、基本的な理念やアプローチには参考にすべき点が多い。
局所的ではあるが、ノルウェーの沿岸海域では過去にフィヨルドに投下された重金属類

 

 

 

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